おかかご飯

「おかか」に目がない。おひたしや湯豆腐の上で時を待つおかかも、お好み焼きの上で悶えるおかかも、海苔とご飯に挟まれたおかかも愛している。
赤坂「辻留」のおしたしの上に乗せられたおかかは細く細く美しく、どうしたのかと聞けば、「花鰹は、鰹節の中の鼈甲色が濃く、透き通ったような色になっているところを電球の破片でかいて、すぐに使うことです」と答えられた。それでこそ花と名付けるにふさわしい仕事なのだと教えられた次第である。
一方手軽な食べ方としては、おかかご飯だろう。ねこまんまと言う異名もあるが、猫に食べさせるにはもったいないほどの美味しさがある。
例えば日本橋のステーキ屋「誠」の締めはオカカご飯で、炊きたての熱々ご飯に削りたての鰹節をふりかけ、上等の醤油を数滴たらす。光り輝き、甘い香りを放つ米粒の上で、踊る鰹節の姿がたまりません。
代々木上原「おこん」では、七夕コシヒカリ新米の炊き立てに、削りたてのおかかとわさびを載せる。食べ始めたら止まらない困ったおかかご飯である。
駅弁なら米原駅の「おかか弁当」だろう。ふたを取れば、一面おかかの花畑である。おかずは焼きたらこ、だし巻き卵など数種類だが、あきらかにご飯の量に対して、おかずが少ない。
つまりこの作者は、おかずでご飯を食べさせようとはしていない。おかかご飯好きが、おかかご飯だけを、ひたすら食べるためだけにある弁当であり、おかずはあればあったで良しとした、潔い弁当なのである。
ボクは、おかずを箸休めとして、ひたすらおかかご飯を食べる。ただしおかかがかかった上部だけ食べてしまうと、ただのご飯になってしまうので、うまく散らしながら、食べていく。
ああ。こう書いているだけで、猛烈におかかご飯が食べたくなってきた。よし今夜は、削り節と削り粉を開け、丁寧に混ぜたら、ご飯にかけてやろう。いや削り節と叩いた梅干しを混ぜ、醤油を数滴垂らし混ぜ、ご飯にのせるのもいいなあ。

マッキー牧元
食べアルキスト。「味の手帖」編集顧問。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、日々飲み食べ歩く。アンジャッシュ渡部健さんの食の師匠としても有名。『出世酒場』(集英社)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)『東京・食のお作法』(文藝春秋)『東京最高のレストラン』(ぴあ・共著)など、著書多数。その他、テレビ「メレンゲの気持ち」、「ぐるぐるナインティナイン」などにも出演。